悪意犯罪 (Crimes Involving Moral Turpitude)

 アメリカへの入国拒否理由の中に犯罪があります。過去に有罪判決を受けた、起訴猶予になった、逮捕された等の経験があれば、今後の入国にどのような影響があるか心配です。全ての犯罪が入国拒否理由に該当するのではありません。いろいろな基準があります。その一つがCrimes Involving Moral Turpitudeです。この概念にぴったりな上手い訳語がないのですが、ここでは「悪意犯罪」とします。悪意犯罪に関して有罪判決を受けた人は、入国拒否の対象になります。

 悪意犯罪の定義は、制定法によって規定されておらず、悪意犯罪についてだされた判例を総合的に判断して定義とするしかありません。全ての犯罪は、基本的には悪意犯罪と非悪意犯罪に二別できます。悪意犯罪とは、「殺人」等どこの場所でも、どの時代であっても本質的に悪意を伴う犯罪行為です。非悪意犯罪とは、「スピード違反」等、場所、時代によって異なり、特に悪意の有無を問うものではなく、違反した場合は法令により犯罪となります。

 悪意犯罪は、刑罰の軽重に必ずしも比例しません。常識的には、懲役刑などあり得ないような軽微な犯罪でも、移民法上は入国拒否の理由となる悪意犯罪に該当する場合もあります。具体的な悪意を持って特定の犯罪行為を行う意図があるかどうかが重要なポイントです。個々の犯罪については専門的な分析が必要になりますので、移民弁護士に必ず相談して下さい。ある犯罪を悪意犯罪かどうか判別する目的でなく、単純に概念を理解する目的のためだけの説明としては、うっかりして犯した犯罪ではなく、悪いと知りながら犯した犯罪と説明すれば簡単で判りやすいかもしれません。さらに、悪意犯罪で有罪判決を受けなくとも、悪意犯罪を構成する要因を認めた場合も、入国拒否理由になりますので、注意が必要です。

 アメリカで、何らかの理由で裁判所のお世話になった場合、その犯罪についての裁判外での交渉(司法取引)を検察官と行う際にも、刑事上の問題だけでなく、今後アメリカに入国を拒否される犯罪とならないように、充分理解して判断してください。今後の人生でアメリカへのかかわりがなくなってしまうリスクを知らないうちに取ってしまったりしないように、可能であれば、刑事事件であっても、必ず移民弁護士又は移民法・国籍法も熟知した弁護士に相談するのが重要です。当事務所においても、過去の裁判記録、犯罪歴の確認から、入国拒否事由の免除まで対応していますので、必要な方はまずは相談して下さい。

2009年2月7日

コメント

  1. 山本寿賀 より:

    ilhwさんへ
    ご質問ありがとうございます。お子さんが同乗していると全てに注意を払うのは大変ですね。単純な交通事故は確かにCIMTに該当しませんが、ESTA上での、「あなたはこれまでに、他者または政府当局に対して、所有物に甚大な損害を与えるか重大な危害を加えた結果、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか?」へは慎重に回答するべきでしょう。この質問に「いいえ」と回答しても深刻な結果にならないかもしれませんが、相手側の全治2週間の怪我及び略式起訴を考慮して、慎重に回答するならば「はい」になる可能性があります。この回答に「はい」とすれば、ESTAは承認されませんから、Bビザを申請するしなければなりません。ESTAを取得するのが最終的な目的でなく、無事米国入国を果たすのが目的です。いいえと答えてESTAを取得して、入国時にこの点について入国審査官が悪印象を持ち、入国できなくては元も子もありません。従って、可能であれば、事前に信頼のおける米国移民法弁護士に相談してより安全、より確実な方法を確認してください。
    (回答:米国弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  2. ilhw より:

    先月、車対車の人身事故で自動車運転過失致死傷として罰金刑を受けました。
    お相手は全治2週間の軽傷で、原因は同乗していた子供に気を取られ、私の不注意で信号を見落としたものです。
    逮捕はさせれおらず、略式起訴での罰金刑です。
    指紋も取られていません。
    この場合ESTAの不道徳犯罪にあたり、ビザの取得が必要でしょうか。
    またビザが取れたとして有効期限はどれくらいのものが取れそうでしょうか?

  3. 山本寿賀 より:

    しょうたさんへ
    ご質問ありがとうございました。ご説明頂いた状況からCIMT(破廉恥罪・悪意犯罪)に該当する虞がありますが、有罪にも逮捕にも至っておらず、また、ESTA申請の質問の一つ「あなたはこれまでに、他者または政府当局に対して、所有物に甚大な損害を与えるか重大な危害を加えた結果、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか」、では「重大な損害」には該当しないため、「いいえ」と回答できるでしょう。ただ、警察のデータベースが共有されている可能性がありますので、入国の際に質問される可能性も低いですが否定はできません。万全策をとるのであれば、米国移民法弁護士にサポートレターを作成して貰い、必要に応じて提示できる準備をするようにお勧めします。
    (回答:米国移民法弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  4. しょうた より:

    はじめまして、質問をさせていだきます。
    昨年の春に電車の切符を無くしたと虚偽申告をしたことにより、鉄道警察から取り調べを受けました。
    1時間ほどの取り調べを受けた後に詐欺未遂ということで警察署長宛の書類に拇印をして帰宅を許されました。後日、警察に問い合わせたところ逮捕はされておらず、微罪処分となっているとの回答を得ました。したがってestaの使用、就労ビザ等の申請に問題はないとの解釈をしているのですが、解釈に間違いはないでしょうか?回答の程宜しくお願い致します。

  5. 山本寿賀 より:

    みーさんへ
    事故に遭われたようで災難でした。無事であったと願っています。良い知らせは、不注意運転は米国へのビザ取得に影響を与える犯罪ではありません。その性質上、不注意運転による起訴は、道徳的な有罪を意味せず、米国では、それがより深刻な性質でない限り(例えば、過失によって数回の事故を起こしている場合で、米国でもその人が不注意に又は無謀に行動するだろうと信じられる場合には、米国へのビザが得られない可能性があります)、そう厳しく扱っていません。ESTAの使用は恐らく大丈夫でしょうが、弁護士を雇い、弁護士にあなたの不注意運転がESTAの使用に影響を与えないと説明するサポートレターを書いて貰うようお勧めします。まだ十分に訓練を積んでいない入国審査官も大勢いますし、中にはあなたが言及した質問への答えは「はい」であるべきだと考える審査官もいるかもしれません。細心の注意を払いたいのであれば、観光ビザの申請もできます。
    (回答:米国弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  6. 山本寿賀 より:

    ゆうすけさんへ
    状況をお聞きして大変そうであり、この経験から大切な教訓を学ばれたと望んでいます。不道徳行為に関わる犯罪(一般的にはCIMTと呼ばれています)で逮捕されたのであればESTAを使用できず、米国大使館又は領事館でBビザを申請しなければなりません。盗撮は領事が使用する指針でCIMTと特に規定されていいませんが、大部分の担当官がCIMTと解釈します。本事案では、盗撮で起訴されていますから、ESTAではなく、ビザ申請をお勧めします。日本の関係官庁があなたの記録を米国と共有している可能性は十分ありますので、ESTAの使用をすれば、入国審査官は空港であなたの起訴を見つけるかもしれませんが、その場合には、起訴がまだ審理中であるにも関わらずESTAを利用しているために問題となり得ます。まだ最終的な有罪が出ていない本事案のような場合には、領事がどうするか推測するのは簡単ではありません。しかし、申請者がビザを得る資格が明確でない場合又はその他の込み入った問題の場合(刑事事案の起訴手続き中等)では、彼らは慎重を期して、また強力な裁量権を行使し申請を却下してしまう虞があります。ビザ申請をする前に移民法弁護士と相談するように強くお勧めします。
    (回答:米国移民法弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  7. ゆうすけ より:

    初めまして。
    昨年末の盗撮(迷惑防止条例違反)から略式起訴を受ける手筈になっています。
    まだ罰金の略式命令は受けていませんが、これは性犯罪に該当しestaでのアメリカ入国には影響するでしょうか?
    また、その場合visaの取得にも影響するでしょうか?
    自首のため逮捕歴はありませんが、指紋などは提出しているのでPCST協定から指紋が提出されている可能性は大きいでしょうか?
    近日卒業旅行を検討しているのですが、visaは間に合わないと考えています。
    estaで引っかかり海外への入国が無理なのであれば、入国で拘留される等友人にバレるリスクを考えると辞退するべきでしょうか?

  8. ゆうすけ より:

    初めまして。
    昨年末の盗撮(迷惑防止条例違反)から略式起訴を受ける手筈になっています。
    まだ罰金の略式命令は受けていませんが、これは性犯罪に該当しestaでのアメリカ入国には影響するでしょうか?
    また、その場合visaの取得にも影響するでしょうか?
    自首のため逮捕歴はありませんが、指紋などは提出しているのでPCST協定から指紋が提出されている可能性は大きいでしょうか?
    近日卒業旅行を検討しているのですが、visaは間に合わないと考えています。
    estaで引っかかり海外への入国が無理なのであれば、入国で拘留される等友人にバレるリスクを考えると辞退するべきでしょうか?

  9. みー より:

    ご担当者様
    お恥ずかしながら、10年ほど前に交差点での自動車事故により自動車運転過失致傷(信号見落とし)となり罰金20万円を支払いました。
    この度恐縮ながら恐縮ながら、ハワイへの旅行を計画しているのですが、私の場合はESTAの質問項目である「他社または政府当局に対して、所有物に甚大な損害を与えるか重大な危害を加えた結果、逮捕または有罪判決を受けたことがありますか」の内容に関し、どのように回答すべきでしょうか。ちなみに逮捕はされておりません。
    個人的な解釈では、この質問には「No」と回答できると思っておりましたが、ご意見を伺いたく存じます。
    ESTAはそもそも利用できず、ビザ申請が必要なのでしょうか。

  10. 山本寿賀 より:

    もふさんへ
     お問い合わせありがとうございました。
    ESTAの質問事項も含め常に正直に答えるのが大切です。また、頂いた情報からは、渡米にはビザの取得が必要なようです。どのようにビザを取得するかについては、判決謄本を取得し、出来るだけ早めに移民法担当弁護士と相談なさるようお勧め致します。
    (回答:米国弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  11. もふ より:

    初めまして、こんにちは。
    ハワイに観光の予定ができます。
    入国出来る方法があるかどうか、教えていただきたいです
    前科1
    強制わいせつ罪
    懲役8年を満了し、5年経っていません。
    事件の対象は未成年でした
    前歴1
    少年の時にも同様の事件で少年院に行ってます。
    EASTAでは、正直に逮捕歴あり、と書くしかありませんが、
    申請は通らない可能性が高いです。
    何か、入国できる方法はありますか?

  12. 山本寿賀 より:

    後藤さんへ

     ご質問、ありがとうございました。ご家族の問題を抱えておられ、御心配でしょう。お子さんの状況はかなり厳しいでしょう。お子さんがビザを取得できるかについては、難しい判断です。通常、未成年者が犯罪を犯し、未成年のための司法機関で有罪判決を受けても、移民法目的では有罪とはみなされません。しかし、米国と日本ではだれを未成年者とみなすかに違いがあります。米国法の下では、未成年者は18歳未満を指します。18歳あるいは18歳以上は大人とみなされます。日本では、年齢が高く設定されています。この結果、米国法ではお子さんは成人ですが、日本法では未成年となります。通常、米国移民法の下、お子さんの申請を担当する領事館員は米国法を適用するでしょう。ですから、領事館職員に状況を伝えるならば、これは大人による麻薬犯罪だと判断し、免除を認められない限り、お子さんは米国への入国資格を永久に喪失します。もし、この事案を領事館職員に明らかにしなければ、未成年者の審理は通常公にされませんので、かれらがその問題を知らずに済んでしまう可能性もあり得ます。但し、虚偽の申告をしたと見做される可能性もあり、そうなるとさらに難しい状況に陥ります。従って、これは非常に難しい事案ですから、可能な限り早く、良い移民法弁護士と相談するよう強くお勧め致します。

    回答:米国移民法弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  13. 後藤 より:

    ご担当者さま
    18歳の息子のことでご質問です。
    麻薬の法規違反の場合、ビザの申請はどのようにしたら宜しいでしょうか?
    少年法のため、前科ではなく前歴扱いであることに加え、情報公開はない、とお聞きしていますが、これは正しいのでしょうか?
    ESTAでの申請でも大丈夫なのでしょうか?
    もしESTAが無理な場合、B-2はとれるでしょうか?
    息子は、カナダ留学中の大学生の知人から自己使用目的でLSDを購入しました。カナダからの郵送途中の封筒が日本の税関で見つかり、家裁送致となり現在保護観察途中です。6か月の保護観察予定です。
    どうぞアドバイスを宜しくお願い致します。

  14. 山本寿賀 より:

    やまさんへ
     お問い合わせありがとうございます。不正直に関する犯罪は、一般的にCrime Involving Moral Turpitude (CIMT=悪意犯罪)とみなされますので、お問合せの件は、CIMT窃盗罪に部類され恐らく悪意犯罪とみなされるでしょう。悪意犯罪となると、ESTAを使用する資格がなくなり、米国へのビザ取得の資格を失います。一回のみのCIMTであれば入国資格喪失にならない状況もありますが、あなたの案件について米国移民法弁護士と相談するのは非常に重要です。

    回答:米国移民法弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  15. やま より:

    恥ずかしながら、数年ほど前に数回キセルを行ってしまい鉄道法違反で2万円の罰金刑を受け前科1となりました。(詐欺罪ではありません。)この場合、悪徳犯罪ということでエスタでのアメリカ入国はできないのでしょうか。。

  16. 山本寿賀 より:

    わたさんへ
     事故に遭遇したそうで心中拝察いたします。自分に過失があるかないかに関わらず、事故は精神的な痛手になります。
     あなたの言うように、この件は、悪意犯罪(CIMT)には該当しない可能性の方が髙いでしょう。ESTAの質問はこれまでに悪意犯罪を犯したか明確に尋ねてはいませんが、それこそが質問の真意です。その質問に「いいえ」と答えても恐らく大丈夫でしょう。ESTAの質問に注目すると、他の内容と共に、重大な身体への傷害をもたらす犯罪に関してこれまで有罪となったかと尋ねています。ですからこの場合、B2の観光ビザをアメリカ大使館か領事館で申請すれば、より安全でしょう。これには、ESTAを申請するよりも多くのプロセスがありますが、より安全でしょう。しかし、ビザを申請する前に弁護士に相談するようお勧めします。
    回答:米国移民法弁護士アレック・キャノン、翻訳:山本千波、監修:米国弁護士山本寿賀)

  17. わた より:

    1年前に人身事故を起こし、過失運転致傷で罰金30万を払いました。実際には車とバイクで、接触はしていないのですが
    こちらの車に驚いて相手方が転倒し怪我が重症になってしまったという内容です。
    スピード違反や飲酒運転ではありません。
    このような前科があるとエスタは申請できませんか?
    内容をみると悪徳犯罪にはあたらないように思うのですがいかがですか?
    来年の8月に家族旅行でアメリカを訪れたいのですが
    どのようにしたらよろしいでしょうか?
    アドバイスいただけると嬉しいです。

  18. 山本寿賀 より:

    ひとみさんへ
     判決謄本を用意の上、米国入国の資格を喪失したかどうか、例外事由に該当するかどうか、免除申請が可能かどうかについて、正式に法律相談を受けられるようにお勧めします。

  19. ひとみ より:

    質問お願いします。
    覚せい剤で保護観察つきの執行猶予になりました。
    先月、執行猶予満了になりました。
    アメリカへ旅行に行きたいと思っておりますが可能でしょうか?

  20. 山本寿賀 より:

    GKJさんへ
     犯罪の内容次第で入国の是非がおおよそ分かります。判決謄本を用意して、法律相談を受けられるようにお勧めします。

  21. GKJ より:

    恥ずかしながら、今年、著作権法違反で逮捕され懲役1年6ヶ月、罰金50万円、保護観察なしの執行猶予3年の判決を受けました。実は逮捕前にアメリカ勤務の仕事の面接を受けており、釈放直後に内定の連絡を頂き来年春から渡米予定です。雇用側はまだ私の逮捕歴について知りませんが、隠せる事ではないと思うので内定取消しになるのも覚悟した上で正直に伝えるつもりです。ビザは15ヶ月間限定の国際文化交流のQビザになり、70名程で一緒に渡米する事になります。また、現在アメリカ人と婚約中です。可能であればアメリカでの就労を終え帰国後、国際結婚とアメリカ移住をしたいと考えています。相手には事実を全て説明してあり、一緒に乗り越えようと言ってくれていますがとても不安です。これまでに語学留学で5年間有効のF-1ビザを取得し1年後に帰国、その後も観光で2~3ヶ月の滞在を何度か繰り返しておりますが、一度も入国拒否や別室での取調べ等を受けた事はありません。それでも渡米回数が多いので逮捕歴に加えてこれらも問題視されはしないかと心配しております。執行猶予中の私には今後、就労と結婚にどのようなハードルがあるのでしょうか?ビザ取得の可能性は残されていますでしょうか?

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